院長の佐藤です。
研修医の頃、手術が上手くなりたくていろんな病院に見学に行きました。好意的に受け入れてくれるところもあり、いくつか有名な先生の病院に行って実際の手術を見せて頂きました。
最近は手術見学に行かなくても、白内障関連の手術はYouTubeで実際の手術映像を見ることが出来ます。しかも高画質で手術を撮影している先生も世界中にいるので、その映像を見ることは勉強になります。それ以来YouTubeで様々な動画を見るのが日常になり、自分が必要とする情報を得るために様々なYouTubeチャンネルを視聴しています。
ある時、医師が医療に関連した内容を配信するチャンネルがあり、テーマが『黄斑変性』ということで興味深く見ていました。その動画のまとめを記載します。
1)加齢黄斑変性は老化によって起こる目の網膜の病気
2)注射治療は劇的に効くことはなく、安全の保障もない
3)高齢になればなるほど、治療の必要性があるか疑問
4)細菌感染の失明リスクは、体力の落ちた高齢者ほど高まる
5)(注射治療は)経済的に余裕がある人の治療法(であり)美味しいものを食べている方がいい
とのことでした。
以下は私の率直な意見を述べたいと思います。
眼科医で網膜を専門とする医師として、同チャンネルのまとめには疑問があります。
1)に関してですが、確かに正しいです。しかし、説明としてならば、「加齢黄斑変性は網膜中心部の病気です」が適切ではないでしょうか。説明すると、「老化よって起こる・・・病気」はすでに「加齢・・・変性」によって説明されており、「黄斑」は網膜の中心部を意味するからです。私なら、「加齢黄斑変性は網膜下に発症した血管新生に起因する網膜中心部の病気です」でしょうか。まあ、この記述は専門分野外の理解でしょうから仕方がないと思います。
2)に関してですが、これは明らかに間違いです。私は網膜の専門家として2005年7月11日から抗血管内皮細胞増殖因子の硝子体内注射を4980回行いました。劇的な効果を示した患者さんは沢山います。カルテを確認すれば、投与後6か月以内に視力を劇的に回復した患者さんの割合を算出することも可能ですし、そのような論文も数多くあります。また、安全の保障もあります。4980回の注射で感染症を起こしたことは1度もありません。確かに100%安全とは言えませんが、それはどの治療でも言えることです。
3)に関してですが、体力的な問題を抱える高齢者こそ視力は重要であると考え、眼科医として毎日診療に励んでおります。また、加齢黄斑変性の状態を鎮静化させれば、80代であっても90代であっても良好な視機能は保存できます。そのような患者さんを毎日、私は診療しております。
4)に関してですが、私は19年間で4980回の硝子体内注射で1例の眼内炎も経験しておりません。また硝子体内注射後の診察を適切に行い、眼内炎発症時に硝子体手術を行えば、ほぼ100%失明することはありません。YouTubeで発言されていた医師は、硝子体内注射前にどのように眼表面の消毒が行われ、30ゲージ針という極めて細い注射針によって行われていることをご存じないのでしょう。
5)について、この治療法は保険診療で行われており、経済的な余裕がない場合でも、公的機関からの様々な支援があり可能です。美味しいものは食べる時に良く見えた方が、より美味しく感じるのではないかと思います。治療を諦めず、良く見える目で食事を楽しんで頂きたいと思います。
こちらの医師はメディアでも活躍しており、社会的影響力を持った素晴らしい先生だと思います。しかし一歩その専門性を離れると、全く的外れな意見を根拠なしに述べていました。今回の加齢黄斑変性に関しても医学論文を少しでも読んでいれば、今回のような結論には至らないと思います。
専門家であれば容易にその間違いに気づくような内容であっても、医師という肩書がある人が言えば、視聴者は簡単に信じてしまうと感じました。
教訓として『自分は決して専門外の医学的論評をしてはいけない』と肝に銘じました。
網膜疾患・白内障・緑内障の治療について詳しく説明しています。