当院では、白内障手術において多焦点眼内レンズ(多焦点IOL)は使用しておりません

その理由は、多焦点眼内レンズには以下のような医学的リスクや見え方の問題が多く報告されており、患者さんの「見え方の質(Quality of Vision)」を長期的に損なう可能性があるためです。

1. コントラスト感度の低下・暗所での見え方の悪化

多焦点眼内レンズは光を複数の焦点に分配する構造のため、単焦点眼内レンズと比べてコントラスト感度が低下しやすいことが国内外の論文で示されています。
暗い場所・雨天・夜間運転など、重要な場面で“見えにくさ”を自覚する方が多いことが問題です。

2. ハロー・グレア・スターバーストなどの不快な光

多焦点眼内レンズでは、夜間のライトが輪状に見える「ハロー」、まぶしさが強くなる「グレア」、光が放射状に伸びて見える「スターバースト」などの不快な光を感じる割合が非常に高いと報告されています。
一部の患者さんでは日常生活や夜間の運転に支障をきたす可能性があります。

3. 見え方への不満足・レンズ交換(抜去)が必要になることも

視力そのものは出ていても、「見え方が不自然」「期待していた見え方と違う」と訴える方が一定数おられ、他院での多焦点眼内レンズを単焦点に交換するケースも報告されています。
特に、不快な光・神経適応不全・残余屈折誤差・レンズ偏位などが原因となります。

4. わずかな屈折誤差・乱視・軽微なズレにも弱い

多焦点眼内レンズは光学構造が複雑なため、“わずか”な屈折誤差や乱視、レンズの“わずか”なズレでも見え方が大きく低下します。
そのため、手術後の調整が難しく満足度にばらつきが出やすくなります。メガネで矯正する必要がでてくる場合もあります。

5. 緑内障・黄斑疾患との相性が悪い

多焦点眼内レンズはもともとコントラスト感度を落とすため、緑内障や黄斑疾患など、視神経・網膜に問題がある患者さんでは見え方がさらに悪化することがあります。
そのため、専門学会でも適応は慎重にすべきとされています。

5. 後発白内障(PCO)やレンズの濁りの影響を受けやすい

多焦点眼内レンズは光学構造が複雑なため、軽度の後発白内障(PCO)やレンズの微細な濁り(グリスニング)でも、見え方の質が著しく低下します。

当院の方針:患者さんの「見え方の質」を最優先します

上記の医学的根拠から、当院では白内障手術において多焦点眼内レンズの使用を推奨しておりません。
加齢黄斑変性、緑内障、角膜不正乱視など、わずかな眼疾患がある方には特に適しません。

当院では、
見え方の自然さ
コントラスト感度
夜間・暗所での安全性
長期的な視機能の安定
を重視し、単焦点眼内レンズをご提案しています。

メガネをかけずに遠くも近くもみえるようになりたい、という気持ちもわかります。しかしそのメリットにこだわりすぎて、見え方の質を落としてしまい、結果“見えにくさ”を感じてしまっては本末転倒です。
単焦点眼内レンズで近用・遠用メガネを使い分け、質の良い見え方で過ごされるのが一番良いと考えています。

白内障・網膜疾患・緑内障の治療について詳しく説明しています。