院長の佐藤です。
近年、レーシックに代わり視力回復手術のひとつであるICL(Implantable collamer lens:眼内コンタクトレンズ) が注目されています。
当院ではICLを治療のひとつとして選択するつもりはありません。ではなぜ、ICLについてコラムに書くのか?その理由については後述いたします。
本題です。
ICLの一般的なメリット・デメリットはその他の情報サイトにお任せするとして、このコラムでは信頼性が高く、最新の医学専門誌からの情報のみを記載して、その事実に基づいての意見を述べたいと思います。
<参考論文>
今回紹介するのは、『Analysis after posterior chamber phakic intraocular lens implantation: 17- to 19-year follow-up study. Journal of Cataract & Refractive Surgery 50(8):p 816-821, August 2024.』 です。
その論文によりますと、平均年齢31歳の近視の患者さんにICLを70眼に移植して17から19年後に良好な裸眼視力を得られ、ICL手術の危険性は低いとの結果でした。
なるほど。
この結果が本当であればインターネット、YouTubeなどで紹介されているICLの情報は嘘ではなく、自由診療であるけれど非常に良い治療なのだと感心しました。
しかし、参考論文を詳しく読むと…
(1)患者の14.2%に白内障が発症していました。
平均年齢は31才でしたから19年後では、平均年齢は50才です。50才では通常、白内障は発症しません。
(2)2.8%に閉塞隅緑内障を発症しました。
これもICLの直接的な影響と考えられます。なぜなら閉塞隅角であればICLは移植しませんので、対象となった患者さんには閉塞隅角は無かったはずです。閉塞隅角が存在しない患者さんは、ほぼ100%閉塞隅角緑内障にはなりません。
(3)この論文の中に記載されていた情報によると、ICLの移植後に角膜内皮細胞は19.9%減少するそうです。
私の白内障手術の角膜内皮細胞数の減少は0.9%ほどで、他の白内障手術術式だと15%ぐらいです。それに比べICLは19.9%減少。角膜内皮細胞が減少すると重症の場合、角膜が混濁し角膜移植が必要になります。
(4)眼圧がICLの移植後に6.8%上昇しています。
眼圧の上昇は、解放隅角でも緑内障を発症させる原因になります。しかも年齢とともにその発症の危険性は増加します。緑内障を発症すると神経線維が減少し視野が狭くなります。欠損した視野は回復しません。(ちなみに私の白内障手術では、眼圧は10%下降します。)
感想。
私は近視ですが一般的なコンタクトレンズを使用しています。ICLの論文を読んでみて、水晶体と虹彩の間に異物を長期間留置するのだから、問題があるだろうなという予想は当たっていました。
論文の結論では危険性は低いと書いてありましたが、すべて読んでみないと信用はできないなと感じました。
また、YouTubeやインターネット広告でもICLを勧めるものが氾濫していますが、私なら怖くてICLは移植しないかなという感想です。もちろん当院でICLの治療をするつもりはありません。自由診療は患者さんの利益にならないという信念は正しいと確信できました。
いまさらICLを調べた言い訳…
(1)医師の使命は病気を治すことが重要な仕事であり、保険診療として国が認めていない治療は、国が病気と認識していないので、保険医が行うべきことではない思っていました。すなわち、自由診療であるICLの治療に興味がありませんでした。
(2)私の専門は白内障手術・糖尿病網膜症・緑内障手術なので、ICLを扱う屈折矯正の治療は専門ではありません。もちろん白内障手術により、ある程度屈折矯正は可能ですので、屈折矯正についての知識は必要ですが、ICLによる屈折矯正とはアプローチが全く異なります。
(3)私は白内障術後の角膜内皮細胞の減少、眼圧下降について興味があり、その論文をいくつか発表しております。そしてICLを眼内に入れた場合の、角膜内皮細胞数や眼圧に変化が起きる可能性があるので調べたくなりました。
これからも気になるテーマがあれば、論文を読んで分かり易く説明していこうと思います。
ここに紹介する論文はインターネットのPubMedという検索サイトかアクセス可能ですので、興味のある方は調べてみてください。
白内障・網膜疾患・緑内障の治療について詳しく説明しています。